命令?
昨日、依頼する表現として「〜下さい」を使うと書いた。
しかしこのような指摘がある。
「〜下さい」は命令する言葉だから、目上の人には使えないんじゃないの??
つまり……
たとえば、高橋さんに「メモを読む」よう依頼する場合。
「高橋さん、このメモを読んで下さい」の「下さい」は命令形なので、目上の人には使えない。
いくら丁寧な言葉とはいっても、命令されて気持ちのいい人などいない。
「高橋さん、このメモを読むようお願いします」または「高橋さん、このメモを読んでいただきます」などとして命令形を避けるのが正しい。
ということらしいのだが……
「くださる」は漢字で書くと「下さる」となる。
自分を目下に見ているので「下」という漢字が用いられる。
逆に目上の人に対しては、物を言うときは「申し上げる」、物を渡すときは「差し上げる」、
と相手を目上に見ているので「上」という漢字が用いられる。
なので「くださる」という言葉には「相手を立てる」+「自分を下げる」表現が含まれている。
また、「くださる」は「くれる」の尊敬語で、「ください」は「くださる」の命令形にあたる。
この「命令形である」という事実にのみ気を遣うあまり、「目上の人に対して失礼な表現にあたる」と考えるようだ。
ところで、最初に「高橋さん、このメモを読んで下さい」と書いた。
しかし、これではまだ尊敬表現としては不十分だ。
「高橋さん、このメモをお読み下さい」と、「読む」も尊敬語にすれば敬意はぐっと増す。
「読んで下さい」では、「読んで」と「下さい」に敬意の程度に差があるため、尊敬表現として不十分と感じられてしまうのだ。
「ここに書いて下さい」も同様、「ここにご記入下さい」と「書く」も尊敬語にすればOK。
「読むようお願いします」「書いていただきます」よりもずっと敬意が増す。
それでも「下さい」は「ぶっきらぼう」で「尊大」な感じがするのでどうしても避けたい、という場合もある。
目上の人との会話では特にそう感じることが多いと思われる。
その場合も先の例と同様に、他の動詞を尊敬表現にした上で、婉曲表現を用いるとよい。
「このメモをお読みいただけますか?」「お書きいただいてもよろしいでしょうか?」
(〜いただく……〜してもらう、の謙譲表現。〜下さる、は相手の行動だが、これを〜いただく、として自分の行動にしている。)
ここで注意。「このメモをお読みしていただけますか?」「お書きしていただいてもよろしいでしょうか?」
としてしまうと「お〜する」となり、謙譲表現を相手に対して使ってしまっていることになる。
また、末尾に「〜よう、宜しくお願いいたします」などといった文句を付けるというのも一つの手だ。
「ご覧くださいますよう、宜しくお願いいたします」「ご回答いただきたく存じます」
ただし、あまり冗長になりすぎないようにしたほうがいい。
ここで、結論としては「下さい」は失礼でも命令口調でも何でもない。
ただし、「お待ちください」「お召し上がりください」のように、他の動詞も同様に尊敬表現にする必要がある。
(「待ってください」「食べてください」では尊敬表現が不十分だ。)
逆に「〜ください」という表現を相手に使われて嫌な気分になる必要もない。
最後に。「〜ください」は命令だから「〜くださいませ」にすればいんじゃね?という意見もあるが、
「〜ませ」は「〜ます」の命令形だ。
なので「いらっしゃいませ」は「いらっしゃいます」の命令形だし、
「召しませ」は「召します」の命令形だ。